2026.08.01 お知らせ

就労世代のがん経験者における就労実態調査 報告

はじめに ― 調査にご協力いただいた皆さまへ

一般社団法人Work with Cancerは、「がんとともに働く」ことの実態を把握するため、就労世代のがん経験者を対象とした調査を実施しました。

オンラインアンケートには、がんの診断歴がある322名の方にご回答いただきました。さらに、そのうち21名の方には、30分から1時間程度のインタビューにご協力いただき、診断後の働き方や職場とのやり取り、当時感じていたことなどを詳しく伺いました。

ご自身の経験を振り返り、言葉にしてくださった皆さまに、心より御礼申し上げます。寄せられた声を、私たちが今後の活動を考えるうえでの大切な出発点にしたいと考えています。

本報告では、はじめにアンケートから見えてきた傾向を整理し、その後、インタビューで語られた具体的な経験をご紹介します。

なお本報告では、休職・復職の支援、時短勤務、通院に合わせた勤務時間の変更、業務量・業務内容・配置の調整、社内の相談窓口など、治療と仕事の両立を支える勤務先の仕組みや対応を、まとめて「両立支援」と表記します。

第1部 アンケートから見えてきたこと

調査の概要

  • 対象:がんの診断歴がある就労世代の方
  • 回答数:322名(正社員190名/非正社員132名)
  • 方法:オンラインアンケート
  • 実施時期:2026年4月
  • 主な設問:診断後の働き方の変化、本来希望していた働き方、働き方に影響した要因、両立支援の利用状況、職場から受けたサポート、情報源、診断後に感じた不安

本調査は、オンラインで参加者を募り、自己申告による回答を集計したものです。そのため、すべての就労世代のがん経験者を代表する結果ではありません。また、項目間の関連は確認できますが、直接的な因果関係まで示すものではありません。

本文中の割合は、四捨五入した概数です。

1.診断後、働き方はどう変わったか

がん診断後の働き方には、雇用区分によって違いが見られました。

診断後の働き方の変化を正社員と非正社員で比較した棒グラフ。「退職した」は正社員9.5%に対し非正社員34%で、非正社員の退職率は正社員の約3.6倍。

正社員では「一時的に休職した」が37%だった一方、非正社員では20%でした。反対に「退職した」は、正社員の9.5%に対し、非正社員では34%となりました。

今回の回答者の中では、正社員は一時的な休職を選んだ割合が高い一方、非正社員は退職に至った割合が高く、退職率は正社員の約3.6倍でした。

本調査だけで因果関係は断定できませんが、後述する両立支援の状況では、非正社員ほど「利用できる支援がなかった」「分からない」「調べなかった」とする割合が高く、休職や勤務調整といった選択肢につながりにくいことが、背景の一つとして考えられます。

また、雇用区分を問わず、退職した方全体の75%が「本当は働き続けたかった」と回答しています。退職した人のすべてが望まない退職だったわけではありませんが、働き続けることを希望しながら退職に至った方が少なくないことが分かります。

2.希望していた働き方と実態のずれ

診断後の実際の働き方と、本来希望していた働き方が一致しなかった方は、322名中128名、全体の39.8%でした。

その内容は、主に次の3つに整理されました。

希望と実態のずれの内訳を示す棒グラフ。「望まない退職」は正社員7.4%・非正社員25%・全体14.6%、「無理をしての継続」11.5%、「希望しない業務縮小」13.7%。

「望まない退職」は非正社員で多く、「無理をしての継続」や「希望しない業務縮小」は正社員でやや多く見られました。

同じように治療と仕事の両立を経験していても、希望と実態のずれがどのように生じるかは、雇用区分によって異なる可能性があります。

3.勤務先の両立支援の有無と利用状況

勤務先における両立支援の状況について、「利用できる支援がなかった」「分からない」「調べなかった」と回答した方は、正社員では10%、非正社員では45%でした。

退職した非正社員に限ると、その割合は約64%でした。

主な回答は次のとおりです。

勤務先の両立支援の利用状況を示す棒グラフ。「支援があり、利用できた」は正社員73%・非正社員36%。「利用できる支援がなかった」は正社員6%・非正社員33%。

今回の調査では、非正社員、とりわけ退職に至った方で、勤務先の両立支援を利用できた割合が低い傾向が見られました。

ただし、「利用できる支援がなかった」ことと、「支援の有無が分からなかった」「調べる余裕がなかった」ことは、分けて考える必要があります。休職や勤務時間の調整などを利用できる仕組みが十分でなかった可能性に加え、支援内容の周知や相談先へのつながり方にも課題があることがうかがえます。

4.診断後に感じた不安

診断後に感じた不安についても、雇用区分によって強く表れる項目が異なりました。

診断後に感じた不安を示す棒グラフ。正社員は「周囲の同僚や上司に負担をかけている」が83%で最も高く、非正社員は「収入面の不安」が84%で最も高い。

正社員では、「周囲に負担をかけている」という不安が83%と最も高く、収入面の不安を上回りました。働き続けられている場合でも、同僚や上司への負担感が大きな不安の一つになっていることが分かります。

一方、非正社員では、収入面の不安が84%と最も高くなりました。

5.働き方に影響した要因

働き方に影響した要因を示す棒グラフ。「体調の悪化・治療の副作用」は正社員70%・非正社員69%。「責任が重い・代わりがいない」は正社員46%・非正社員28%。

体調の悪化や治療の副作用が最も多い点は、正社員と非正社員に共通していました。

一方、「責任が重い・代わりがいない」は、非正社員の28%に対し、正社員では46%でした。正社員が感じる周囲への負担感には、担当業務や役割を代替しにくい状況も関係している可能性があります。

6.職場で受けたサポート

職場で受けたサポートについて、上司の理解があったと回答した方は8割を超え、同僚の理解についても8割前後となりました。

職場で受けたサポートを示す棒グラフ。「上司の理解」は正社員86%・非正社員82%である一方、「配置転換などの調整」は正社員47%・非正社員43%にとどまる。

上司や同僚から理解を得られたと感じている方は多い一方、具体的な働き方の調整まで行われた割合は、それより低くなっています。

業務量や業務内容の調整は6割以上で行われていましたが、配置転換などの調整は全体の45%でした。

また、退職した方に限ると、業務量の調整があった方は47%で、配置転換などの調整については76%が「なかった」と回答しています。

この結果だけから、調整の有無が退職の直接的な原因だったとは言えません。ただ、上司や同僚の理解に加えて、業務量、勤務時間、担当業務、配置などを具体的に調整できるかどうかが、働き続けるうえでの重要な論点であることがうかがえます。

7.診断後に情報を得た場所

診断後に情報を得た場所を示す棒グラフ。「インターネット検索」85%・「医師・医療機関」79%に対し、「会社(人事・上司)」は正社員7.5%・非正社員6%と最も低い。

診断後の情報源として「会社の人事や上司」を挙げた方は、正社員・非正社員ともに1割未満でした。

今回の調査だけでは、回答者が勤務先にどのような情報を求めていたかまでは分かりません。ただ、休職や勤務時間の調整、利用できる社内外の相談先など、働き続けるために必要な情報を勤務先からどのように伝えるかについては、検討の余地があると考えられます。

また、非正社員では「同じ経験を持つ人」を情報源として挙げた割合が正社員より高く、当事者同士で経験や情報を共有できる場へのニーズもうかがえました。

第2部 インタビューから見えてきたこと

アンケートの数字だけでは、診断から休職、復職、退職に至るまでに、本人と職場の間で何が起きていたのかまでは分かりません。

そこで、アンケート回答者のうち21名に、診断後の経験を詳しく伺いました。限られた人数へのインタビューであり、すべてのがん経験者に共通するものではありませんが、アンケートで見られた傾向の背景を考えるうえで、重要な示唆を含んでいます。

正社員のインタビュー

1.上司や人事に「伝える」ことの難しさ

病状や治療の見通し、希望する働き方を上司や人事に伝えることの難しさが語られました。本人だけでなく、話を受ける上司も、どこまで確認し、どのように対応すればよいか迷っていた様子がうかがえます。

当初は女性上司で話しやすかったが、男性上司に変わった際、どこまで伝えるべきか悩んだ。上司間での引き継ぎがなかったことが後から分かった

30代・正社員/観光

復職の1か月前に上司・人事と面談し、業務をセーブしたい意向を伝えて了承された。しかし復職初日から、休職した同僚の代わりに業務を引き継ぐことになった

40代・正社員/不動産

2.復職後に働き方を見直す機会の不足

復職時には面談が行われても、その後、体調や治療の変化に合わせて業務量や勤務時間を見直す機会がなかったという声もありました。

術後の復職時に1回面談があったのみで、その後の定期面談はなかった。定期的な面談や相談の機会があれば良かった

30代・正社員/観光

介護休暇や育児休暇のような明確な制度がないため、会社側と本人の「お気持ち表明」に留まってしまう

40代・正社員/不動産

休職や復職のタイミングだけでなく、復職後も継続的に体調や業務量を確認し、必要に応じて働き方を見直す機会が求められていました。

3.前例がないなかで判断する難しさ

職場に過去の対応事例がないため、本人も上司も判断に迷ったという声がありました。

会社に前例がなく、上司も当時32〜33歳で前例がなかった。会社の平均年齢が28歳で、組織として対応経験がなかった

30代・正社員/人材サービス。最終的に退職

働ける状態なのに、やんわりと「働かせてほしい」と伝えても断られた。別の空間にいるような社会的孤立を、ずっと感じていた

50代・正社員

こうした声からは、上司や同僚に理解や善意があったとしても、それだけでは勤務時間や業務内容、配置などの具体的な調整につながらない場合があることが分かります。

本人と職場の双方が相談でき、選択肢を一緒に整理する役割の必要性も見えてきました。

非正社員のインタビュー

非正社員へのインタビューでは、勤務先の支援を利用する以前に、相談先や支援に関する情報を得られていなかったという声が聞かれました。

中小企業のため産業医などの制度は存在せず、病気療養の制度の有無も調べなかった。そこまで頭が回らなかった

50代・パート/不動産

ハローワークや職業相談窓口は利用しなかった。両立支援の相談先も全く思い浮かばず、NPOや病院の支援についても情報がなかった

50代・パート

また、雇用を失うことへの不安から、十分に療養する前に復職した例もありました。

パートという立場から職を失う不安が強く、無理して手術後わずか3週間で職場復帰した

50代・パート

一方で、同じような状況にある人とつながり、経験を知りたいという声もありました。

30〜50代で就労とがん治療を両立している人のオンラインコミュニティがあれば参加したい。会社だけに頼るのではなく、同じ境遇の人の話を聞いて、自分にできることを見つけたい

50代・パート

非正社員への支援を考える際には、勤務先の休職制度や勤務調整だけでなく、社外の相談窓口、当事者同士の情報共有、治療と両立しやすい仕事への再就職支援なども、今後検討すべき論点になると考えられます。

おわりに ― いただいた声を、次の一歩へ

Work with Cancerでは、この結果をもとにいくつかの活動方針を立てています。

具体的な取り組みは、これから順次ご報告していきます。

また、今回の調査は、がんと就労をめぐる課題の全体像を捉えるための初期的な調査として設計したものであり、設問や対象の設定には、まだ十分に捉えきれていない点もあります。一方で、皆さまから寄せられた回答や声によって、今後さらに掘り下げるべき論点が具体的に見えてきました。

今後は、今回の結果を出発点に、設問や調査方法を見直しながら、課題の背景や必要な支援をより具体的に明らかにするための調査を継続していきます。

改めて、調査にご協力くださったすべての皆さまに、心より感謝申し上げます。

一般社団法人Work with Cancer「就労世代のがん経験者における就労実態調査」(2026年)
アンケート:N=322(正社員190名/非正社員132名)/デプスインタビュー:n=21

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